「夢の中の恋人」ズーカラテルの歌を思い出す。いつぶりに見る夢だろうか。十年はとうに過ぎている。
夢から目覚めて、こうして現実の世界で時を刻んでいても、今日の夢は鮮やかに思い出すことができる。
小さなクッションに埋め尽くされた、勇気を出して飛び降りないと辿り着けないその秘密基地は、どうやら私が行き方を忘れていたらしい。彼はそこへ行くのが目的だったかのように私を案内した。
秘密基地へと続くその穴は、周りの物に紛れてその場凌ぎのように、ベニヤ板で蓋をして隠されていた。ベニヤ板を少し捲り、私の方を見て『行こう』と目で訴える彼は、高校時代の彼だった。
翌日は何かのイベントらしい。体育館の様な仕様の広い建物内には、練習を終えた生徒達が帰ってゆく。生徒達に見つからない様に隠れて二人身を寄せ、触れ合う今にも汗をかきそうな彼の熱い肌、少し上がった息の音、服の上からの温もりを感じるその瞬間が、私の胸を躍らせた。
高校時代はもうそんな遠い存在になってしまったのかと感じる。あの頃の記憶、あの頃の私に対する彼の気持ちはもう、時間という名の風に吹かれ散って、私の記憶の中にだけ息づいていたことが分かる。あの頃は誰よりもあなたを分かっていたつもりでいたけれど、今は誰よりも分からない。
手を繋いでいたんだと思う。夢から覚めても片手に温もりが残っている。夢から覚めた瞬間にすぐ側で共に歩んでいた温もりが粒子となって風と共に去っていった。私は独りなんだと分かっているのに、夢でまでひとりを感じさせるなんて。
この夢は私の中にだけ残る微かな記憶、淡い期待に終止符を打つためのものだったのかもしれない。